Bouncy Techno
ロンドン周辺でイメージされるサウンドとは、かなり空気感が異なっている
同じ「ハッピーハードコア」という名前で括られているのに
知らないDJ、知らないレーベル。そして何より、トラックのサウンド、DJのプレイスタイルがあまりにも違いすぎる
北東部には、高速4つ打ちの熱狂が育っており
南部的なブレイクビーツ文化とは別の文脈で
そこにある音楽は、「妙に4つ打ち」なのです。
真っ直ぐ突き進むキックと、異様に跳ねるグルーヴが前面に出てくる。
北東部のハードコアファンたちは自分たちのシーンに対してかなり強い誇りを持っています
その地域周辺ではブレイクビーツ自体がそこまで支持されていません。
南部のシーンでは当然のように存在していた「ブレイクビーツ」的な感覚がかなり薄く
当時のスコットランド周辺では、ブレイクビーツはむしろ「ロンドン的」「イングランド南部的」な音として受け止められていた、という証言が複数残っています。
Wikipediaの「Bouncy Techno」の項目
当時のスコットランドではブレイクビーツが以下のように見られていた、という記述があります
“black English thing(黒人系イングランド文化の音)”
“alien musical culture(異質な音楽文化)”
北東部〜スコットランド周辺では、「どんなグルーヴで踊りたいか」は南部(ロンドン周辺)と大きく異なっていた可能性がある
レイヴ文化そのものは熱狂的に支持されていた一方で
彼らが求めていたのは、南部的なDJが繊細に緻密にグルーヴを繋いでいくクラブミュージックというより、「みんなで騒ぐレイヴ」だったのかもしれません。
当時のスコットランド〜北部シーンでは、DJよりライブパフォーマンスが重視されていた
当時のスコットランドのレイヴでは、DJよりもグループやライブアクトがヘッドライナーとして扱われ
ダンサーや衣装、ステージ演出込みで盛り上げる文化があったとされています。
北東部〜スコットランド周辺では、Gabberの影響を受けた高速4つ打ち路線が強く支持されるようになっていきました。
そして、その需要に対して最適化された結果
イングランド北東部では、Scott Brown、Marc Smithなどのサウンドが象徴的ですが、そこには後年UK Hardcoreとして整理される音とは少し違う、北のレイヴ独自の熱量があります。
しかも興味深いのは、この流れが単なるローカル突然変異では終わらなかったことです。
Paul Elstak周辺のFuncore/Happy Gabber的な流れにも接続していきます。
後にオランダ側へも影響を与え
北東部〜スコットランドの4つ打ち文化は、90年代ハードコア全体にかなり大きな影響を与えていた可能性すらあるのです。 UKハードコアの脇道どころか
「アンチチーズ同盟」と北東部のプライド
「自分たちは他とは違う」という意識がかなり強く存在していたことです。
単に音が違うだけではなく、
その象徴的な存在が、Bass Generator
ニューカッスル・アポン・タインのDJ/プロデューサー
Bass Generator Recordsのオーナー
「Bassy G」の愛称で親しまれる
「Rezerection(通称Rez)」のレジデントDJ
北東部で伝説的なレイヴ
「Judgement Day」の主催者
北東部で伝説的なレイヴ
90年代北東部ハッピーハードコアを語る上で、この名前は避けて通れません。
ニューカッスル周辺ではBass Generatorはかなり特別な存在だったようです。
日本ではScott Brown周辺の方がよく知られている印象がありますが、
Bass Generatorを自分たちのヒーローとして語る空気がかなり強くあります。
実際、当時の北東部フォーラムや回顧スレッドを読むと
「北東部ハードコアのルーツ・カルチャーを作った人物」として扱われている印象
単なる人気のあるDJというより
現地感覚では「ロンドン?知らんけど、こっちはBass Generatorだから!」くらいの熱量が見えてきます。
後年整理されたハッピーハードコア史では、北東部シーン自体がやや周辺的に扱われることが多いが
もちろん誇張は入るものの、少なくとも「自分たちのシーンの象徴」としての自負はかなり強かったように感じます。
「アンチチーズ同盟」ミーム
その空気を象徴する
アンチチーズ同盟という言葉自体は92年のSpiral Tribeプロデュースデュオとしてすでに存在
この「Cheese」という言葉、スラング文脈
商業的すぎる
甘すぎる
軟弱
ポップ寄り
本気感がない
チープ
「俺たちの現場っぽくない音」に対する拒否感
そして極めつけとして有名なのが
あるDJが『DJ Magical - Rush Hour』を流したのだが、これはかなり甘ったるい曲だった。そこにBass Generatorがやって来て、ターンテーブルからレコードを取り外し床に叩きつけ、「もうそのクソみたいな曲はかけるな」と告げた。
当時のM8 Magazineに掲載されていたそう
スコットランド最大のレイヴ・シーンを扱う音楽誌
一部のフライヤーにAnti Cheese Allianceの文字と、巨大な臭いチーズの塊のイラストが描かれた
この騒動の後
ハッピーハードコアに対する「チーズコア」という蔑称
個人的に、凶悪な音楽を支持するオランダGabberシーンから生まれたの言葉だと思い込んでいました
重要なのは現地のハードコア好きの間で「そういう物語が支持される空気」が存在していることです。
事件の正確性ではなく
細部は語り手によってブレますし、もはや都市伝説化している部分もありますが
つまり北東部シーンには、「俺たちのハードコアはあんな軟弱なモンじゃねーぜ」という感覚が強くあった
そして面白いのは、この「反チーズ」的価値観が、単なる音楽性だけでは終わっていないことです
そこにはかなり強いローカルアイデンティティが混ざっています。
ニューカッスル周辺では、「ジョーディ(Geordie)」という言葉が大きな意味を持っています
ジョーディとは、「ニューカッスルの者」または「独特の訛り言葉/話し方」などを指す言葉です。
言葉、酒場文化、サッカー、労働者気質。
そして「ロンドンとは違う俺たち」という感覚。
北東部ハッピーハードコアの荒々しさは、このGeordie的気質ともかなり結びついていたように思えます。
だからこそGGM/Geordie Gabber Mafia(DJ SmurfをはじめとしたGabberクルー)のような名前も出てくる。
こちらはアンチチーズ同盟ミームが生まれたときと同時期に誕生しました
その背景にある感情はかなり本気で情熱的です。
この名前はいま見ると物騒にも感じますが、実際には地元シーンの誇りを半ば冗談混じりに誇張したネーミングだったのでしょうが
雑な表現で言えば、「跳びぬけてレイヴ音楽」だった
「クラブミュージック」というより
綺麗に作り込まれたサウンドより、とにかく跳ねるキックを優先し、繊細なミックスより、現場の熱狂
スマートさより、騒げるかどうか
むしろ同じハッピーハードコアという名前の下で、これほど価値観が違っていたことが非常に面白いと感じるわけです。
これは南部の一般的なハッピーハードコアシーンを否定したいわけではなく
Bass Generatorは、その北東部的価値観を象徴する存在
「ニューカッスルの現場感そのもの」のようなな存在です
だからこそ今でも、北東部の古参ファンが彼を語るとき、どこか地元の英雄として誇らしげに伝えるような空気が残っているのかもしれません。